安倍首相と岸田外相は腹を切るべきか?<br />「日ロ共同経済活動」と<br />「オバマ広島訪問」の真意とは。<br /> |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

安倍首相と岸田外相は腹を切るべきか?
「日ロ共同経済活動」と
「オバマ広島訪問」の真意とは。

藤井聡(内閣官房参与)×適菜収(作家)新春対談「2017年どうなる、どうする?」第1回《集中連載》

【オバマ広島訪問】

藤井 ところで適菜さんと以前お話しましたが、一般的な見解として、広島のオバマ訪問は相当深刻な問題だ、という指摘が根強くある。広島では無辜の民が大量に殺戮されたわけで、これは動かしがたい歴史的事実です。落としたのはアメリカ政府、落とされたのは日本国民。これはもちろん許してはいけない。というよりむしろ、理性がある方なら何人であろうが許せない話だと考えると思う。普通の戦争行為ではなくて、そこから逸脱した大量虐殺ですから。

適菜 普通の言葉を使えばジェノサイドですね。

藤井 日本国家は、謝らなくていいとは1回も言っていない。「謝れ」とも強くは言っていないかもしれないが、謝らなくてもいいとも言っていない。そして、日本国内には「謝れ」と言っている国民も多数存在します。だから、少なくともアメリカ大統領が広島にやってくれば、「謝る」のだろうと多くの人々が「漠然」と感じていた。ところが、オバマ大統領は広島にやってきて、謝らずに帰っていた。

適菜 日本政府も謝罪を要求しませんでした。

藤井 これでアメリカは、「広島、長崎の件について、日本にはもう謝らなくてもいいんだ」との認識に至った、と考えることができる。そもそも、米国内には広島訪問にはものすごい反対があった。行ったら謝らなあかんようになると。ところが、広島に行っても謝らなくてよかった、となると、アメリカ人に「日本人て、原爆落として何十万人殺しても、謝らんでもええような奴らなんや」と思われても仕方ないのではないかと思う。

適菜 許しがたいのは、被爆者と抱き合う演出までやった。それをメディアがネタにした。

藤井 もちろん、日本人の寛容の美徳はわかる。しかし、「過剰な寛容」は「悪徳」なんです。それを今のほとんどの日本人は分かってない。そもそも悪を許すのは、悪に加担することになるんですから。

適菜 そうです。悪に加担したんです。

藤井 本当にこれで、アメリカ人に「日本人って、大量に殺しても別に構わない奴らなんだ」と思われたとすれば、これは日本国家にとって相当に深刻な問題。ちなみにこの問題意識を白人の友人に英語で説明したところ「そりゃそうだ。お前の言うとおりだ」って強く同意してもらえました。僕の様な意見は日本ではほとんど耳にしないかもしれないけど、先進諸外国では「常識」なんじゃないかと思います。さらに言うと、今回の日本人の態度は、ガンジーの非暴力主義とは全く違う代物。あれは非暴力だけど「戦い」だった。でも今の日本の態度は単なる記憶喪失、ないしは記憶改ざん。記憶を喪失したり改ざんする輩に倫理なんて宿るはずもない。記憶を喪失する輩は、ありがとうもごめんなさいも言えないんですから。

適菜 常識が全部、ふっ飛んでしまっている。安倍が真珠湾に行ったのも言語道断です。国際社会から見れば、オバマの広島訪問とバーターになっているわけで。

藤井 「広島の原爆投下」と「通常の戦争行為」が「等価」だったと解釈されても不思議ではない。もちろん、あくまでも慰霊であり、等価交換とは無関係というのが日本政府の立場ですが。

適菜 一部報道によると、バーターの話は早い時期からあったそうです。安倍はバーターだと思われたくないので黙っていて、秋くらいから動き出したと。同じ年に行き来するわけだから、国際的にはそう思われますよね。安倍は「初訪問だ」「戦後の総決算だ」と鼻息を荒くしていましたが、真珠湾に行った総理としては四人目だったそうです。本当に余計なことしかしてない。

藤井 世界からバーターと捉えられることがあれば、歴史問題は「決着」と認識されることになるでしょうね。でもそれは、「戦勝国が作った(日本=悪、アジア=被害者、米国=善という)戦後レジームを、日本が正式に認めた」という形での決着。唯一、原爆投下については米国=悪の要素があったのに、それを真珠湾と同じレベルの事にしちゃったわけですから。とはいえ繰り返しますが、一応はバーターでないというのが日本政府の立場ですが……

適菜 まさに戦後レジームの確定です。もう取り返しがつかない。アメリカで失敗して、ロシアで失敗して、中国の習近平にはコケにされ、日韓基本条約で決着済みの問題も蒸し返した。それでわけのわからない日韓合意が「不可逆的」に決定された。これは歴史の扱い方としても変。日本を下品のどん底に叩き込んでいるのに、なぜか今「外交の安倍」ということになっている。狂っているとしか思えないですね。

藤井 もしそうだとすれば、それは結局全て、今の日本人の感覚が「植民地根性」にどっぷりとつかってるからでしょう。実質的に独立国家と言いがたい状況が70年以上も続くと、国民は誇りも気概も自尊心も無くし、結果、倫理も常識も蒸発したとしても致し方ありません。

 

※藤井聡(内閣官房参与)×適菜収(作家)新春対談「2017年どうなる、どうする?」第2回につづく

 

【著者プロフィール】

◉藤井聡(ふじい・さとし)

1968年、奈良県生まれ。京都大学大学院工学研究科教授。11年より京都大学レジリエンス研究ユニット長、ならびに第二次安倍内閣・内閣官房参与(防災減災ニューディール担当)。著書に『大衆社会の処方箋  実学としての社会哲学』『社会的ジレンマの処方箋 都市・交通・環境問題のための心理学』『大阪都構想が日本を破壊する』『〈凡庸〉という悪魔』『超インフラ論』、適菜収氏との共著『デモクラシーの毒』『ブラック・デモクラシー』など。

◉適菜 収(てきな・おさむ)

1975年山梨県生まれ。作家。哲学者。ニーチェの代表作『アンチ・クリスト』を現代語訳にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』(以上、講談社+α新書)、『日本をダメにしたB層の研究』(講談社+α文庫)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(以上、講談社)、『死ぬ前に後悔しない読書術』(KKベストセラーズ)など。安倍晋三の正体を暴いた渾身の最新刊『安倍でもわかる政治思想入門』(KKベストセラーズ)が発売即重版。全国書店、Amazonにて好評発売中。

KEYWORDS:

オススメ記事

藤井聡×適菜収

藤井聡(ふじい・さとし)

 

1968年、奈良県生まれ。京都大学大学院工学研究科教授。11年より京都大学レジリエンス研究ユニット長、ならびに第二次安倍内閣・内閣官房参与(防災減災ニューディール担当)。著書に『大衆社会の処方箋  実学としての社会哲学』『社会的ジレンマの処方箋 都市・交通・環境問題のための心理学』『大阪都構想が日本を破壊する』『〈凡庸〉という悪魔』『超インフラ論』、適菜収氏との共著『デモクラシーの毒』『ブラック・デモクラシー』など。近著に『プライマリーバランス亡国論』(扶桑社)と佐藤健志氏との共著『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)がある。

 

適菜 収(てきな・おさむ)

 

1975年山梨県生まれ。作家。哲学者。ニーチェの代表作『アンチ・クリスト』を現代語訳にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』(以上、講談社+α新書)、『日本をダメにしたB層の研究』(講談社+α文庫)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(以上、講談社)、『死ぬ前に後悔しない読書術』(KKベストセラーズ)など。安倍晋三の正体を暴いた渾身の著書『安倍でもわかる政治思想入門』『安倍でもわかる保守思想入門』が絶賛発売中。

 

この著者の記事一覧

RELATED BOOKS -関連書籍-

安倍でもわかる政治思想入門
安倍でもわかる政治思想入門
  • 適菜 収
  • 2016.11.16